2つの労働保険のうちの1つ、労災保険は正確には「労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」)」に基づく制度で、歯科衛生士が仕事中、もしくは通勤中という「仕事に関係する事をしている時」に適用される、怪我や病気などを保証してくれる保険制度です。
- 歯科医院内の仕事、歯科医院への通勤中に怪我をした場合
- 歯科医院、大学病院など在職中に病気にかかった場合
- 障害が残った場合
- 死亡した場合
以上の時に、支払われる保証制度が労災保険です。
この労災保険は国により強制加入が義務付けられているので勤務する歯科医院によってこの労働保険の有る・無しは存在しません。
歯科衛生士が労働者として勤務する以上、必ず加入することが出来る保険です。
アルバイトやパートも加入できる保険ですので
※業務委託で契約しているフリーの歯科衛生士の場合
業務委託は労働者として勤務しているわけではないので労働保険の対象外となることがあります。
しかし、実際には他の正職員やアルバイト・パートと同じように院長の指示で院内の就業規則と同様の働き方をしている場合がほとんどです。
その場合は、業務委託でも労災保険の適用と見なされ、事業主は労働保険への加入が必要です。業務委託契約の締結時(理想は最初の面談の時に)に労働保険について確認をしましょう。
歯科医院ごとの求人情報
歯科衛生士業務のどんな時に適用されるの?
怪我の場合
歯科医院内での勤務中の怪我はもちろん対象です。
しかし、厳密に考えると休憩時間は従業員個人の自由が認められる時間ですので、以下のような点を覚えておくとよいでしょう。
休憩時間は「どこで怪我をしたか」
昼食をとりに歯科医院から外出した先で転倒して怪我をした→不適用
歯科医院内のトイレ内で転倒した、ロッカーに指を挟んで骨折した→適用
歯科医院内であれば就業先の設備的な不備によって怪我をしたと認められるので適用ですが、まったく関係のない場所での怪我は認められません。
歯科衛生士の職業病「腰痛や腱鞘炎」
歯科衛生士は同じ姿勢で処置を行うことが多く、無理な姿勢から腰痛や腱鞘炎が職業病とも言われています。
腰痛などは突発的な事故により腰が痛くなる場合と、慢性的な疲労により腰痛が起こる場合(非災害性腰痛)があります。
突発的な事故はもちろん適用されますが、慢性的な疲労による腰痛や腱鞘炎は歯科衛生士業務のレベルでは適用されることはまずありません。
具体的な基準は以下のとおりです。
知っておくとお得な知識:非災害性腰痛の区分
(1)腰部に過度の負担がかかる業務に比較的短期間(おおむね3か月から数年以内)従事する労働者に発症する腰痛
- おおむね20キログラム程度以上の重量物又は軽重不同の物を繰り返し中腰で取り扱う業務
- 腰部にとってきわめて不自然ないし非生理的な姿勢で毎日数時間程度行う業務
- 長時間にわたって腰部の伸展を行うことができない同一作業姿勢を持続して行う業務
- 腰部に著しく粗大な振動を受ける作業を継続して行う業務
(2)重量物を取り 扱う業務又は腰部に過度の負担がかかる作業態様の業務に相当長期間(おおむね10年以上)にわたって継続して従事する労働者に発症した慢性的な腰痛
歯科衛生士の業務ではこの基準をクリアすることはほぼ出来ないので慢性的な腰痛などは日頃のケア(患者に勧める予防的な観点で)を行う事が大切です。
※引用 公益財団法人 労災保険情報センター
病気の場合
「業務起因性」と呼ばれる「歯科衛生士業務が病気の直接的な原因になっているか」の内容が認められれば労災は認定されます。
例えば、もともと疾患を持っている人が勤務中に発症した場合これは歯科医院での労働が原因で発症したものではないと判断されて認定されません。
残業や仕事の量、内容が一般的なものよりもはるかに多い・重い状態だった場合に発症した時やパワハラや心的な過度なプレッシャーにより発症した場合には認定されることもあります。
この場合、ややテクニック的ではありますが以下の点を抑えておくと認定されやすいです。
- 元々持っていた疾患では無い事の証明(例えば健康診断の結果など)
- 勤務状況が心身に重大な負荷をかけていたという証拠(残業や業務量、パワハラなどの証拠)
- 上記2点を細かく説明し、発症した病気の診断書を医師に書いてもらう(合わせて想定される原因も)
医師の診断は、あくまでも参考ですが非常に重要視される要素です。
さらに、その病気の原因になったものが歯科医院での業務だったと客観的に判断されれば労災は認定されます。
歯科衛生士が歯科医院での業務が原因でうつ病などの精神的な疾患を発症した場合
- 長時間労働
- 多すぎる仕事量
- セクハラ(セクシャルハラスメント)
- パワハラ(パワーハラスメント)
労災の精神障害が認定されるには以下の3点を満たしている必要があります。
- 対象となる精神障害を発症している
- 発症前おおむね6か月間に業務による強い心理的負荷が認められる
- 業務以外の心理的負荷、個体側要因(既往症、生活史など)によって発病したのではない
この3点を証明するには特に2の歯科衛生士業務による強い心理的負担を明確に証明する必要があります。
わかりやすく言うと「動かぬ証拠」が必要です。具体的な出来事を誰が見ても理解できる形の物証があればなお良いでしょう。
怪我などと違い、心の病は目に見えません。歯科医院の中は数人の組織である事が多いうえに院長が経営者とイコールになるという非常に偏った力関係の組織です。
したがって、目撃証言などは得られづらく物証による信頼性を証明する以外に認定を得る事は困難です。
「○○と言われた」「□□のような扱いを受けた」などは具体的な証拠が無い限り、パワハラやセクハラ、いじめなどは否認されてしまえばそれまでです。
ただし、歯科医院側、院長などに理解があり鬱病などについて勤務状況などの証明をしてもらえる場合は認定の可能性が高くなります。
信頼関係を築けている院長であれば相談してみるのも良いでしょう。
歯科衛生士が訪問歯科や学校検診に訪れた場合は適用される
労災保険の適用は歯科医院内だけに限った事ではありません。
業務をおこなうに当たり、患者の住居へ赴いて診察を行う予防歯科や、学校に訪問しての学校健診の時など労災保険が適用されます。
休業している間に、新しい歯科衛生士を雇用して、自分が解雇されないか不安
業務を行っている時に怪我や病気になった事で休業する場合、その間に解雇できないように定められています。
労災の手続き、請求方法
公益財団法人 労災保険情報センター